神戸地方裁判所 昭和41年(わ)694号 判決 1979年5月10日
本店の所在地
神戸市生田区栄町通五丁目三一番地
法人の名称
三友企業株式会社
代表者の住居
同市兵庫区楠谷町四八番地
代表者の氏名
大橋祐司
本籍
神戸市生田区相生町四丁目七三番地
住所
同市東灘区御影中町八丁目五番一九号
会社相談役
岡新
昭和三年一月三日生
本籍
神戸市長田区駒栄町一丁目公有地
住居
同市灘区赤坂通一丁目一番地
会社役員
中西均
大正一三年六月一日生
右被告人三友企業株式会社に対する法人税法違反、被告人岡新に対する法人税法違反、恐喝、被告人中西埼に対する恐喝、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反、労働基準法違反各被告事件につき、当裁判所は、検察官松尾司出席のうえ審理して次のとおり判決する。
主文
被告人三友企業株式会社を罰金一、五〇〇万円に、被告人岡新を懲役六月に、被告人中西均を懲役一年六月に、各処する。
被告人中西均に対し未決勾留日数中六〇日を右刑に算入する。
この裁判確定の日から、被告人岡新に対し二年間、被告人中西均に対し三年間、それぞれその刑の執行を猶予する。
訴訟費用中、証人松浦祐爾に支給した分は被告人中西均の負担とし、証人羽淵守に支給した分はその二分の一ずつを被告人三友企業株式会社及び被告人岡新の各負担とする。
昭和四一年五月二一日付起訴状記載の恐喝の公訴事実につき、被告人岡新及び被告人中西均はいずれも無罪。
昭和四一年七月二〇日付起訴状記載の恐喝の公訴事実につき、被告人中西均は無罪。
理由
(罪となるべき事実)
第一 被告人三友企業株式会社は、神戸市生田区栄町通五丁目三一番地に本店を設け、船内荷役業を主目的とするもの、被告人岡新は、昭和三二年一一月二六日から昭和四一年六月二〇日まで右会社の取締役としてその常務を担当していたものであるが、右会社の代表取締役関精義と共謀のうえ、右会社の業務に関し法人税を免れる目的をもつて、
一 昭和三八年一〇月一日から昭和三九年九月三〇日までの事業年度において、右会社の実際の所得が九、六一五万四、七六一円であつたのにもかかわらず、日雇労務賃及び下払作業料を架空計上するなどの不正な方法により所得の一部を秘匿したうえ、同年一一月三〇日、所轄神戸税務署長に対し、所得金額が一、六二二万四、四一二円で法人税額が五七六万八、一九〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて、右事業年度における正規の法人税額三、六一三万八、六四〇円との差額三、〇三七万四五〇円をほ脱し
二 昭和三九年一〇月一日から昭和四〇年九月三〇日までの事業年度において、右会社の実際の所得が九、六八一万九、九八八円であったのにもかかわらず、前同様の不正な方法により所得の一部を秘匿したうえ、同年一一月二七日、所轄神戸税務署長に対し、所得金額が三一、五〇〇万二、三八八円で法人税額が一、二四一万六、五五〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もって、右事業年度における正規の法人税額三、五二八万六、八八〇円との差額二、二八七万三三〇円をほ脱し
第二被告人中西均は
一 かねてよりの取引先であつた姫路市笹堀一二五番地姫路生コンクリート株式会社代表取締役高橋政一に対し約九〇〇万円の債権を有しているものと考えていたが、同人との取引関係が途絶えかつ右債権額に争があつて同人がその支払をしようとしなかつたところから、債権回収名下に右高橋から金員を喝取しようと企て暴力団山口組系山健組組長山本健一、同石井組組長石井貞次郎、同菅谷組組員赤坂一男及び宝満国広と共謀のうえ、昭和三八年一二月一日午後四時ころ、右会社事務所において、右石井、赤坂らが、右高橋に対し、右金員の支払を要求し、同人が右債権額を争い金額が確定すれば支払う旨申出ているのにもかかわらず、「山口組から来ているのだ、明日から姫路生コンはどうなるやわからんぞ。あんたの息の根をとめさしてもらう。俺が白目をむいだらピストルの弾が飛び出る」などと申し向け、さらに同日午後一〇時ころ、同人を神戸市長田区御蔵通五丁目五番地所在株式会社中西工務店に連行し、同所において、こもごも大声で、「ぐずぐずいわんと払え」と怒号し、右山本において「このまま帰ろうと思つたらあてがちがうぞ」とか、右石井において「姫路の山口組の者に姫路の方から先に片づけさせるぞ」とか、被告人中西において「払わなかつだらどうなるかわからんぞ」などと申し向け、右要求に応じないときは、右姫路生コンクリート株式会社の営業を妨害したり右高橋やその家族らの生命身体に危害を加えるかもしれない旨告知して脅迫し、同人をしてその旨畏怖させ、よつて、翌二日午前零時過ころ、右姫路生コンクリート株式会社事務所において、同人をして、同会社振出名儀の小切手一通(金額三〇〇万円)及び約束手形二通(金額三〇〇万円及び三一三万七、八〇〇円)を右株式会社中西工務店事務課長片山重太郎に交付させて、これを喝取し
二 昭和三八年一二月、土木建築請負業株式会社奥村組が、阪神高速道路公団から阪神高速道路の建設を請負い、右工事を土木建築業株式会社溝尾商店に下請させたことを聞知するや、右下請負工事を同商店に実施させずに無理矢理前記中西工務店に下請させるようにしようと企て、前記暴力団山口組系山健組組長山本健一らをして右奥村組柳原工事事務所長松浦祐爾に対し、右工事を右中西工務店に下請させるよう強く要求させていだが、同人から拒否されるや、昭和三九年一月一一日ごろ、神戸市長田区御蔵通五丁目五番地所在前記中西工務店に右松浦を呼びつけ、同所において、同人に対し、右要求を繰り返し、これを拒否されるや、右山本と共謀のうえ、右松浦に対し、右山本において「このまま仕事が出来ると思うならやつてみい。わしが顔を出した以上、このままで済むと思つたら間違いやぜ」などと申し向け、被告人中西において「このまま仕事が出来ると思うたらやつてみい」などと申し向け、暴力団山口組組員らが右奥村が請負つた右建設工事を妨害するかもわからない旨ほのめかし、もつて数人共同し、かつ暴力団山口組の威力を示して脅迫し
三 昭和三七年四月一〇日より昭和四一年一〇月三日までの間神戸市兵庫区遠矢浜町二八番地に本店を有し、生コンクリートの製造販売を業とする神戸生コン工業株式会社の代表取締役としてその経営を担当していたものであるが、臼井四郎が、法定の除外事由がないのに、右会社の業務として
(一) 織田温人と共謀のうえ、別表1記載のとおり、昭和四一年二月二六日より同年四月二九日までの間、右会社等において、労働者青木義一をして、一日八時間を超えて延五四回、二〇二時間の時間外労働をなさしめ
(二) 田和弘之と共謀のうえ、別表2記載のとおり、同年二月二六日より同年四月二九日までの間、右会社において、労働者仁村公男外一五名をして、一日八時間を超えて延五五九回、二、六一三時間三〇分の時間外労働をなさしめ
(三) 森田照一と共謀のうえ、別表3記載のとおり、同年二月二六日より同年四月二九日までの間、右会社等において、労働者山先作司外一二名をして、一日八時間を超えて延五〇一回、二、三一六時間三〇分の時間外労働をなさしめ
ていることを知りながら、その期間において、その是正に必要な措置を講ぜず、
四 昭和三六年一月二八日より昭和四一年八月一八日までの間、同市長田区南駒栄町五番地に本店を有し生コンクリート製造販売を業とする神戸生コンクリート工業株式会社の代表取締役としてその経営を担当していたものであるが、九鬼節三が、法定の除外事由がないのに、右会社の業務として
(一) 赤木勝と共謀のうえ、別表4記載のとおり、昭和四一年二月二六日より同年四月二九日までの間、右会社等において、労働者西尾正明外三二名をして、一日八時間を超えて延一、二九九回、三、六〇六時間五〇分にわだり、神戸市内などの注文先への生コンクリート運送等の時間外労働をなさしめ、
(二) 山田正司と共謀のうえ、別表5記載のとおり、同年二月二六日より同年四月二九日までの間、右会社において、労働者平海英夫外二〇名をして、一日八時間を超えて延九二〇回、三、四四四時間の時間外労働をなさしめていることを知りながら、その期間において、その是正に必要な措置を講じなかつた
ものである。
(証拠の標目)
判示第一の事実全部につき
一 昭和四一年(わ)一、九四三号事件第一六回公判調書中証人羽淵守の供述記載
一 右同事件第一八回公判調書中証人吉田吉次の供述記載
一 右同事件第一九回公判調書中証人福井吉春の供述記載
一 右同事件第二二回公判調書中証人政木清の供述記載
一 右同事件第二三回公判調書中証人加藤良夫の供述記載
一 栗原正道(謄本)、長谷川俊紀(二通)、島田恵美子(二通)、田中政好(二通)、羽淵守、吉田吉次(昭和四一年九月二一日付二通、同年一〇月一日付、同月二一日付、同年一二月六日付)、福井吉春(同年一〇月一九日付、同年一一月一七日付、同月一八日付、同月二四日付)、大橋祐司(同年一〇月一九日付、同年二〇日付、同月二四日付抄本、同月二八日付抄本)、政木清(同年同月二一日付)、同月二五日付、同月二七日付)、岡精義(同年同月二九日付、同年一一月一九日付、同月二一日付、同月二六日付、同年一二月一五日付)の検察官に対する各供述調書
一 株式会社神戸銀行栄町支店長神田好之助作成の確認書二通
一 大蔵事務官作成の調査てん末書二通
一 被告人三友企業株式会社代表取締役大橋祐司の当公判廷(右同事件第二八回)における供述
一 被告人岡新の検察官(同年九月二〇日付、同年一〇月一九日付、同月二〇日付、同月三一日付、同年一二月一日付二通)に対する各供述調書
一 押収してある補助帳一冊(昭和四九年押二七四号の一)、同経費明細帳二冊(同号の一の一、一の二)
判示第一の一の事実につき
一 大蔵事務官作成の昭和四一年一二月一四日付証明書(検甲一号)
一 三宅孝男の検察官に対する供述調書二通
判示第一の二の事実につき
一 大蔵事務官作成の同年同月同日付証明書(検甲二号)
一 辻哲夫の検察官に対する供述調書
判示第二の一の事実につき
一 高橋政一の検察官に対する供述調書二通
一 高橋美智子の検察官及び司法警察員に対する供述調書二通
一 青木照男の検察官及び司法警察員に対する供述書
一 片山軍太郎の検察官及び司法警察員に対する昭和四一年五月一日八日付、同月二六日付及び同月二八日付各供述調書
一 寺田武雄の警察官及び司法警察員に対する同月二〇日付各供述調書
一 石井貞次郎の検察官に対する同年六月一一日付、司法警察員に対する同年五月二四日付、同月二五日付、同月二八日付各供述調書
一 赤坂一男の検察官及び司法警察員に対する同年六月二〇日付、同月二九日付各供述調書
一 山本健一の検察官に対する供述調書
一 宝満国広の警察官及び司法警察員に対する同年七月二五日付、同月二六日付各供述調書
一 司法警察員作成の被疑者中西均以下六名に対する恐喝被疑事件の第二現場である中西工務店階下応接間等の状況について復命と題する書面
一 司法警察員作成の同年五月二六日付実況見分調書
一 押収してある約束手形二通(昭和四一年押三〇六号の三七及び三八)、同小切手一通(同号の三九)
判示第二の二の事実につき
一 松浦祐爾の検察官及び司法警察員に対する昭和四一年八月一六日付各供述調書
一 十河晃美の検察官に対する同年一〇月七日付及び司法警察員に対する同年八月一五日付各供述調書
一 井上一好の検察官及び司法警察員に対する各供述調書
一 坂本義興の検察官及び司法警察員に対する各供述調書
一 山本健一の検察官に対する同年一〇月一四日付及び司法警察員に対する同年八月二三日付各供述調書
一 被告人の検察官に対する同年一〇月一一日付及び司法警察員に対する同年八月一九日付各供述調書
判示第二の三の事実全部につき
一 登記官作成の神戸生コン工業株式会社についての登記簿謄本二通
一 松本静代の司法警察員に対する供述調書
一 司法警察員作成の昭和四一年八月五日付捜査報告書
一 臼井四郎の検察官(二通)及び司法警察員に対する各供述調書
一 被告人中西均の検察官(昭和四一年九月三〇日付謄本二通)及び司法警察員(同年七月一九日付)に対する各供述調書
一 押収してあるタイムカード三月分一綴(昭和四二年押三二号の一)、同四月分一綴(同号の二)、同五月分一綴(同号の三)
判示第二の三の(一)の事実について
一 青木義一の司法警察員に対する供述調書
一 織田温人の検察官(昭和四一年九月二九日付、同月三〇日付)及び司法警察員(同年六月一五日付、同年七月四日付)に対する各供述調書
判示第二の三の(二)の事実につき
一 仁村公男、近藤晃、杉野政勝、小林信義、間島隆尚、土井信夫、新宮領正治、藤本実、滝原好男、新宮領義治、松谷雄二、浅田三郎の司法警察員に対する各供述調書
一 上田績、阿部興人、岡崎慶太郎の検察官及び司法警察員に対する各供述調書
一 田和弘之の検察官(昭和四一年九月一九日付、同年一〇月五日付)及び司法警察員(同年七月七日付)に対する各供述調書
判示第二の三の(三)の事実について
一 下向重範、中村歳昭、山内実、山口勝堅、嶽釜守芳、橋本訓、松永一洋、大庭貞友、林三雄の司法警察員に対する各供述調書
一 山先作司、中島金吉、三浦金郎、松田勝彦、足立典雄の司法警察員及び検察官に対する各供述調書
一 森田昭一の検察官(三通)及び司法警察員に対する各供述調書
判示第二の四の事実全部につき
一 登記官作成の神戸生コンクリート工業株式会社についての登記簿謄本二通
一 金子寿子の司法警察員に対する供述調書
一 司法警察員作成の昭和四一年八月六日付事件報告書
一 九鬼節三の検察官(同年九月二八日付、同月二九日付、同年一月一四日付)に対する各供述調書
一 被告人中西均の検察官(同年九月一〇日付、同月三〇日付)に対する各供述調書
一 押収してあるタイムカード三月分一綴(同号の一〇の一)、同四月分(同号の一〇の二)、同五月分(同号の一〇の三)
判示第二の四の(一)の事実について
一 西尾正明、近川正、伊藤年男、茂、滝島章、田中、長井幸市、竹一静男、安楽暁、上月義教、稲田勝、岩本松二、沖之島章、高橋和男、横山強、安井保雄、北川秀夫、山崎菊雄、田口雄一、生田秀夫、内山保信、西村一美、吉本正幸、村上真佐男、小椋忠、浜田正男、田中春男、外山四郎、西岡繁喜、後出耕三の司法警察員に対する各供述調書
一 小泉庄一、大西正和、餘語正雄の検察官及び司法警察員に対する各供述調書
一 赤木勝の検察官及び司法員に対する各供述調書
判示第二の四の(二)の事実につき
一 道広浩三、上田勲一、細尾泰司、大月謙一、宮永崇、高原繁枝、奥定男、安藤慶三郎、衛藤重忠、岡輝亘、下野光則、岡敏春の司法警察員に対する各供述調書
一 平海英夫、佐名宗一、藤原宗次郎、山本政男、引地綾都、松林静雄、服部明、仏坂勝彦の検察官及び司法警察員に対する各供述調書
一 野良幸男の検察官(二通)及び司法警察員に対する各供述調書
一 山田正司の司法警察員に対する供述調書
(法令の適用)
被告人三友企業株式会社の判示第一の一の所為は、法人税法附則二条、一九条により、昭和二二年法律二八号(旧法人税法という)五一条一項、四八条一項、二項、一八条一項に、判示第一の二の所為は、法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項、七四条一項二号に、被告人岡新の判示第一の一の所為は、法人税法附則二条、一九条により、旧法人税法四八条一項、二項、一八条一項、刑法六〇条に、判示第一の二の所為は、法人税法一五九条一項、二項七四条一項二号、刑法六〇条に、被告人中西均の判示第二の一の所為は、刑法二四九条一項、六〇条に、判示第二の二の所為は、行為時においては暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、昭和四七年法律六一号による改正前の罰金等臨時措置法三条一項二号、刑法六〇条に、裁判時においては、暴力行為等処罰ニ関スル法律一条、罰金等臨時措置法三条一項二号、刑法六〇条に、判示第二の三及び四の各所為は、昭和四七年法律五七号附則二六条により右法律による改正前の労働基準法一一九条一号、一二一条二項に、各該当するところ、被告人中西均の判示第二の二の所為については、刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、被告人岡新の判示各罪及び被告人中西均の判示第二の二、第二の三及び四の各罪につき所定刑中いずれも懲役刑を選択する。そして、被告人三友企業株式会社及び被告人岡新の判示第一の一及び二の罪は、それぞれ刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人三友企業株式会社については、同法四八条二項により各罰金を合算し、その金額の範囲で同被告人を罰金一、五〇〇万円に処し、被告人岡新については、同法四七条本文、一〇条により重い判示第一の一の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲で同被告人を懲役六月に処し、同法二五条一項によりこの裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予し、被告人中西均の判示第二の一ないし四の各罪は、同法四五条前段の併合罪であるから同法四七条本文、但書、一〇条により重い判示第二の一の罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲で同被告人を懲役一年六月に処し、同法二一条により未決勾留日数中六十日を右刑に算入し、同法二五条一項によりこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、刑事訴訟法一八一条一項本文により訴訟費用中、証人松浦祐爾に支給しだ分は被告人中西均に、証人羽淵守に支給しだ分はその二分の一ずつを被告人三友企業株式会社及び被告人岡新に、それぞれ負担させることとする。
(弁護人の主張に対する判断)
一 判示第一の一及び二の事実について
被告人三友企業株式会社及び被告人岡新の弁護人は、(一)法人税法上、法人の所得の計算はいわゆる損益計算法によらなければならず、たとえ、損益計算に必要な資料が欠如している場合には財産計算法(財産増減法)によることが許されるとしても、本件においては、欠如している資料は証憑書類全体からいえばその一部にすぎないので、なお損益計算法によることが可能であるから、財産計算法(財産増減法)により本件所得を計算して断罪の基礎とすることは許されない。(二)たとえ、本件において、財産計算法(財産増減法)により所得を計算することが許されるとしても、神戸銀行栄町支店の飯田高秀、三沢健二、木川義雄、佐野良介名義の普通預金口座の預金は、被告人岡新が代表取締役をしている三友建設株式会社の仮空名義の預金であつて、被告人三友企業株式会社の普通預金ではないからこれを同会社の所得と認定することは許されない。(三)被告人三友企業株式会社の仮空名義である神戸銀行栄町支店の三沢健二、飯田高秀、山口操、井上三平、藤沢薫、多田好弘の各普通預金口座は、昭和四〇年九月三〇日の期末において、残高零ないし赤字になつており、これらの金額は、定期預金に組入れているのであるからこの金額は所得より控除されるべきである。(四)被告人三友企業株式会社の代表取締役であつた亡岡精義が代表取締役をしていた神戸生コン運輸株式会社の隠匿所得が右各預金口座に預入されているから、この金額も被告人三友企業株式会社の所得から控除されるべきである、と主張する。
そこで右主張について順次検討する。
(一) 財産増減法による所得計算は許されないという主張について
旧法人税法九条一項は、「内国法人の各事業年度の所得は各事業年度の総益金から総損金を控除した額による」と規定し、現行法人税法二二条一項も、「内国法人税の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする」と規定し、同条二項以下において、右益金の額及び損金の額に算入すべき損益の額を具体的に定めており、いわゆる損益計算法により所得計算をすることとしているのであるが、他方旧法人税法三一条及び現行法人税法一三一条は、内国法人の財産若しくは債務の増減の状況等により課税標準を推計することができると定め、いわゆる財産増減法による推計をすることも認めているところであるから、損益計算の基礎となる資料が整っておらず、かつ財産増減法により計算することが合理性を欠くものとは認められない場合には、財産増減法により所得計算をすることが許されるものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、本件の第一八回公判調書中の証人吉田吉次の供述記載によると、本件各ほ脱の方法として採られた架空労務賃を計上する基礎となった架空人夫の支払金額を記載したメモは破棄されて存在しないことが認められ、また被告人岡新の検察官に対する昭和四一年一二月五日付供述調書によると、従業員に対する貸付金を記載したメモが破棄されたことが認められ、右の架空労務賃の支払及び従業員に対する貸付の実態を把握することができず、したがって、本件各所得を損益計算法により正確に把握することはできない状態にあることが認められ、そして、本件においては、検察官は、財産増減法により算出した所得額を基礎として各公訴事実を主張しているのであるが、他方損益計算法による所得計算をし、本件第九回公判期日においてその結果を釈明しているのであり、これによると、所得額は、昭和三八年一〇月一日より昭和三九年九月三〇日までの分については、五二万三、〇〇〇円、昭和三九年一〇月一日より昭和四〇年九月三〇日の分については、一、〇六八万九、〇〇〇円が財産増減法による計算と一致していない模様であるが、右各期における所得の規模及び所得隠ぺいの手段方法等を考慮すると、右の程度の計数上の差額が生じたとしても、財産増減法により各所得を計算することが合理性を欠くものとは認められない。そうすると、本件各所得を財産増減法により計算することも法人税法上許されているものと解するのが相当であり、この点に関する弁護人の主張は採用することができない。
(二) 飯田高秀、三沢健二、木川義雄、佐野良介の普通預金は、被告人三友企業株式会社のものではないという主張について。
前掲関係各証拠ことに、政木清、大橋祐司、(昭和四一年一〇月二八日付)及び被告人岡新(同月一九日付、同月三一日付、同年一二月一日付(険甲七七号))の検察官に対する各供述調書によると、被告人岡新は、被告人三友企業株式会社の架空労務賃の支払及び架空下払作業料の支払により得た現金を、同会社の当時の総務部長大橋祐司に対し、銀行に預金をしておくよう指示して手渡し、同人がさらに知人で被告人岡新の実弟である政木清にその旨依頼し、同人が神戸銀行栄町支店へこれを持参し、飯田高秀、三沢健二、木川義雄、佐野良介の架空名義の普通預金口座を開設し、これに右現金を預入れたことが認められる。もつとも、証人政木清、被告人三友企業株式会社代表者大橋祐司、被告人岡新は、当公判廷においていずれも、右各普通預金口座は、被告人三友企業株式会社のものではなく、当時被告人岡新が代表取締役をしていた三友建設株式会社の架空経費として捻出したものを右政木清が被告人岡新の指示を受けて預入れたものであり、捜査段階では、右三友建設株式会社の脱税の事実が発覚するのをおそれる余り右各普通預金口座は被告人三友企業株式会社のものである旨虚偽の事実を述べたものである旨供述するのであるが、右各公判廷における供述においては、三友建設株式会社が仮空経費の支払を仮装した状況及び被告人岡新が右政木清に銀行へ預金するよう指示した状況等について具体的な供述がないのに比し、検察官に対する各供述調書においては、被告人岡新が大橋祐司に現金及び印鑑を渡して銀行預金にしておくよう指示した状況及び同人がさらに政木清に依頼して預金させた状況等について詳細な供述をしており、神戸銀行栄町支店における他の架空名義の普通預金口座と特に区別する理由もなく、右検察官に対する各供述は十分信用できる。そうすると、神戸銀行栄町支店における右飯田高秀、三沢健二、木川義雄、佐野良介の各普通預金口座の預金は、被告人三友企業株式会社のものと認めるのが相当であり、弁護人の右主張は、採用できない。
(三) 神戸銀行栄町支店の三沢健二、飯田高秀、山口操、井上三平、藤沢薫、多田好弘名義の各普通預金口座の昭和四〇年九月三〇日の期末における期中増差額が零ないし赤字になつている金額は、所得から控除されるべきであるという主張について。
前掲関係各証拠ことに、神戸銀行神田好之助作成の確認書二通、被告人岡新の検察官に対する昭和四一年一二月一三日付、同月一日付(検甲七六号)に対する各供述調書によると、昭和三九年一〇月一日から昭和四〇年九月三〇日までの事業年度において、被告人三友企業株式会社の神戸銀行栄町支店における仮空名義である三沢健二、飯田高秀、山口操、井上三平、藤沢薫、多田好弘の各普通預金口座の預金残高は、それぞれ期首には二二九万三、九〇六円、二三一万四九〇円、五〇万四、一〇八円、二九一万八、〇六二円、三三五万二一五円、一七六万六、〇七八円あつたものが、期末にはそれぞれ零になつていること、右減少した各預金は期末までにすべて同銀行同支店に架空名義で定期預金として預入していることが認められるが、右の事実によると、期末に減少した普通預金は期末に増加した定期預金に転換したものにすぎず、普通預金と定期預金の期末における資産としては結局増減がないのであるから右普通預金の減少額を特に所得から控除する必要はないものと認められる。なお、弁護人らは、普通預金が期末において赤字になつているものがあるというけれども、そのような事実を認めるべき証拠はない。弁護人の主張は採用できない。
(四) 生コン運輸株式会社の隠匿所得が被告人三友企業株式会社の所得に混入されているとの主張について。
被告人岡新は、当公判廷(本件の第二五回)において、神戸生コン運輸株式会社の雑収入を隠匿して架空名義の預金にしていたものが、被告人三友企業株式会社の所得に混入して計算されている旨供述するのであるが、このような事実は、同被告人独り右公判廷において供述しているだけで、他にこれを裏付ける証拠は皆無であり、右供述自体によつても混入しているという普通預金の金融機関名、預金口座名、預金額は詳かにすることができないというのであつて、右供述については、いまだ神戸生コン運輸株式会社の預金が被告人三友企業株式会社の普通預金に混入しているものとは認めることはできない。弁護人の主張は採用できない。
(以下省略)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 梨岡輝彦 裁判官 小河巖 裁判官 田中俊夫)
別表1
<省略>
別表2
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
別表3
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
別紙4
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
別紙5
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>
<省略>